私は「事務所の特徴」に記載しているとおり、顧問契約を結んでいるお客様と紙資料のやりとりは基本的に行っておりません。
会計上・税務上必要な資料のやりとりはクラウドの共有フォルダ上で行っております。
つまり、請求書や領収書(レシート)をレターパックや封筒に入れて、税理士事務所に郵送する王道パターン(=丸投げドーン!)を採用していません。
それは何故か?
お客様が領収書(レシート)を税理士事務所に丸投げするメリットとデメリットを踏まえて説明いたします。
丸投げのメリット
丸投げドーン!の最大のメリットは、手間がかからず楽!とにかく楽!
これに尽きると思います。
紙資料をレターパックか封筒に入れて、税理士事務所へドーン!
お客様の作業は、紙資料をガンガン入れてポストへ投函して終わりです。
これだけ見ると面倒な経理の手間もかからず「丸投げドーン!って最高じゃん!」と思えますね、表面上は…。
丸投げのデメリット
では、丸投げドーン!のデメリットは?
いくつかあるので、それぞれ詳しく説明していきます。
ある程度整理する必要がある
メリットに書いた紙資料を整理もせず乱雑にレターパックか封筒に入れて税理士事務所へドーン!の方法ですが、税理士事務所は当然これを嫌います。
丸投げドーン!に対応していても「領収書はA4の白紙に日付順に重ならないように貼ってください」とお願いする事務所も多いでしょう。
乱雑にまとめてドーン!がOKの場合でも「資料整理代として月数千円もらいます」やこれが原因で毎月の顧問料の値上げをお願いされるケースもあります。
勝手な判断で経費に計上されない可能性がある
丸投げドーン!の一番大きなデメリットがこれです。
領収書(レシート)を見ただけでそれが何に使われたか判断できないケースは多々あります。
例えば、最近子どもが生まれた社長の会社から送られてきた領収書にベビー用品店「あかちゃん○○」のものがあったとします。
その領収書の内容は、実際には同時期に子どもが生まれた得意先の営業担当に送った贈答品だとします。
しかし、その事実を記載せずにそのままドーン!で送ってしまうと…。
「ったく、この人はまた私的な領収書を入れて…」と問答無用で経費から外されてしまうかもしれません。
税理士事務所の担当者が気の利く人でうまくコミュニケーションが取れていれば、
「社長、あかちゃん○○の領収書はどのような内容のものでしょうか?」と聞いてくれるかもしませんが、これはその担当者のスキルや性格、そしてお客様との関係性に大きく左右されます。
なお、税理士に払う顧問料が安い場合は、勝手に判断されてしまうケースが多いでしょう。
単価が安い顧問先にそこまで多くの時間と労力を割く事務所は少ないからです。
このような感じで、少しでもプライベートを疑われる領収書の多くが知らずに経費になっていない可能性があります。
1枚数千円でもそれが年間で数十枚になると、経費にならなかった金額はいくらになるでしょうか?
消費税課税事業者で原則課税を採用している場合、控除できる消費税をいくら無駄にしているでしょうか?
丸投げで手間を省く代わりに、大事なものを失っているかもしません。
これを防ぐにはご自身で領収書に取引内容を記入しなくてはなりません。
手間を省く為に丸投げドーン!を採用していても、自分を守る為には最低限の手間をかけないといけないのです。
ポケットマネーでいくら経費になったのか分からない
もうひとつ大きなデメリットがこれです。
特にひとり社長の場合、会社の経費は自分のポケットマネーから支払っているケースがほとんどでしょう。
例えば3ヶ月ごとに会計資料を税理士事務所にドーン!するとして、3ヶ月分のポケットマネーから支払った金額を何の記録もつけずに正確に覚えていられるでしょうか?
「この3ヶ月で100万円くらい会社の経費として使ったから、その分を法人口座から引き出すか」
このような感じで、ざっくり試算で引き出しをしている方も多いと思います。
しかしざっくり試算が外れて、実際のレシートは90万円分しかなく、しかも丸投げドーン!のためプライベート臭がするレシート合計10万円分は勝手に省かれて、会計上は80万円しか経費になっていなかったとします。
そうすると80万円しか引き出してはダメなのに、実際は20万円も多く引き出していることになります。
差額の20万円は会社から社長への貸付となり(役員賞与であると指摘される場合も…)、決算までにこれが解消できない場合は、貸付金が決算書に載ってしまい、それに対する利息も収益として計上する必要があります。
ひとり社長の会社では良くある現象ですが、P/L(損益計算書)だけを見てもこの事実には気が付かないので、B/S(貸借対照表)もしっかりと確認するようにしましょう。
さらに、貸付があると銀行借入を行う際の大きな壁にもなり得るので、引き出しすぎには気を付けましょう。
当事務所の経理方法
ここまで丸投げドーン!のメリットとデメリットを述べてきましたが、ここからは当事務所の経理方法をお伝えします。
紙で渡さない!もらわない!を徹底
発行請求書はデータで送る!(印刷して郵送はNG)
受領請求書も極力紙でもらわないようにする!
どうしても紙でもらうところはそのデメリットを受け入れてでもその取引先と付き合っていくべきか考えましょう。
データであればそれをクラウド等に移して保存するだけですが、紙でもらうと紙のまま保存するかそれをルールに基づいてスキャンするというそこそこ難易度の高いひと手間が加わります。
ペーパーレスを実践したい場合はこのひと手間がかなり厄介な存在となります。
レシートはエクセルorスマホ
DX化が推進されている現代において、請求書の電子化はそれほど難しくありませんが、紙のレシートを完全に無くすことはまだ難しいです。
顧問先のお客様には現金or社長マネー決済の紙のレシートが発生した場合には、その経理方法を以下の2つから選択していただいております。
- 簡単なエクセル現金出納帳にレシートの内容を入力していただく(紙保存)
- レシートをスマホで撮影してクラウドかチャットに送ってもらう(スキャナ保存)
今のところ、①を選ぶお客様が圧倒的に多いです。
なお、お客様に入力していただくエクセル現金出納帳は非常にシンプルです。
「日付、金額、取引内容(店名等)」のみご入力いただくので、簿記や税の知識は一切必要ありません。
入力していただいたエクセルデータをそのまま会計ソフトに取り込むので、丸投げドーン!だと省かれてしまう可能性のある経費もバッチリ計上できます。
また、エクセル現金出納帳には経費の合計額欄も備わっている為、毎月いくら現金決済の経費を使ったかも一目で分かります。
「何となく100万円」の結果生じてしまう引き出しすぎのリスクもこれで解消されるので、一石二鳥です。
また、レシート原本の保存方法は自由ですので、「A4の白紙に日付順に重ならないように貼る」という作業は強制しておりません。
少しの手間で正しい経理ができる
それでも、丸投げドーン!の手軽さは、経理に時間を取られたくない方には非常に魅力的かと思います。
今契約している税理士事務所が乱雑丸投げドーン!OKにも関わらず適正価格できちんと確認の上経理してくれているのであれば、何の問題もありません。
しかし、上記のリスクを知らずに楽だからという理由だけで丸投げドーン!を採用している場合は注意が必要です。
正しい経理を行う為には、少しの手間は避けられません。
その少しの手間ですら苦痛であると思うか、ご自身の経営に生かす為の習慣とするか、どちらが良いかは経営者それぞれの判断になるでしょう。
この記事がご自身の経理業務について、「少しの手間を惜しんで大事なものを失っているかもしれない」という気づきのキッカケになれば幸いです。