私にとって初めて税理士試験を受験した年である2016年(平成28年)。
「簿記論」と「財務諸表論」を同時受験したこの年を振り返っていきます。
簿記論
簿記論を舐めていた
私は2015年11月開催の日商簿記1級に独学で合格していたので、
「簿記論は1級以下だろ?余裕だぜ」
と簿記論を完璧に舐めていました(笑)。
日商簿記2級に合格して、
「ワシ簿記の才能あるわ!1級は独学で行けるわ!」
と勘違いして1級に死ぬほど痛い目にあったことをもう忘れてしまったのです。
そもそも簿記論と日商簿記1級は全く別物の試験です。
1級に合格したからと言って、その知識だけで簿記論に合格できるわけではありません。
簿記論特有の攻略法を身につけないと勝負できません。
それを知らずに1級合格で調子に乗っていた私は簿記論にボコボコにされました。
簿記論の特徴
簿記論は120分の試験時間内では全問解答するのがほぼ不可能な量の問題数で構成されており、皆が解答できないであろう難しい問題は捨て、皆が解答できる簡単な問題は絶対に落としてはいけないと言われる試験です。
このような特徴なので、4科目の内ひとつでも40%未満だと他の3科目が全問正解でも不合格となる足切り制度を採用している日商簿記1級とは全く性質が異なります。
「ヤバい論点⇒スルー」
「簡単な論点⇒ミスると即死」
簿記論特有のこの割り切りを本試験までに身につけないといけません。
最初はこれが全く出来ず簿記論に跳ね返されて、1級に独学で合格した自信は粉々になりました(笑)。
繁忙期に全く勉強できず焦る
2015年10月~12月は予備校TACの「基礎マスター」という初学者向けのクラスにいたので、周りも自分と同じレベルの人ばかりでしたが、年明け2016年1月から始まった「上級クラス」は前年不合格となった簿記論経験者の集まりなので、一気に周りのレベルが上がりました。
さらに上級クラスでは月に2回「答練」という本試験並みの難易度の模試があり、答練の結果で自分がクラスの上位何パーセントに位置するか分かります。
この時点の私は、毎回下から数えた方が早い位置におり、答案を返される度に簿記論の先生から「お前本当に1級受かったんか?」的な冷たい目で見られていました(笑)。
さらに12月~翌年3月まで税理士事務所は繁忙期で、私もこの時期だけはほぼ毎日残業でまとまった勉強時間を確保することができませんでした。
簿記1級を経験していた為、簿記論で全く知らない論点は出てこなかったので授業は何とかついていけましたが、自習する時間が取れません。
この時点で答練は毎回下位30%近辺をウロウロしていました。
この時期は非常に辛かったですが、「繁忙期が終われば何とかなる」と信じて耐えていました。
繁忙期明けの3月中旬から一気に覚醒
確定申告業務が終わった3月中旬から残業も無くなり、17時定時で上がることができる日々が戻ってきました。
ここから一気に覚醒しました。
仕事後すぐに予備校の自習室に向かい、ひたすら簿記論の問題集を解いて解いて解きまくって、問題集を何周もしました。
すると問題を見ただけで何も考えず勝手に電卓を叩けるようになり、問題を解くスピードが格段にアップしました。
4月からは答練でもその成果が出始め、下位30%から一気に上位10%までステップアップしました。
簿記論の先生も答練の解説時に「最近このクラスでは革命が起きている」的なこと言っていましたが、これは私のことだと思います(笑)。
1級を経験していたので、簿記論の試験範囲の知識は頭に入っていたのですが、それをアウトプットする技術が足りていなかったのです。
よって、簿記論の問題に慣れるだけで一気に上位に進出することができたのでした。
さらに一旦上位まで行くと「自分ができない問題は他の人もできない」という確信が生まれる為、自信をもって問題の取捨選択ができるようになります。
「今の自分が少しでも難しいと思った問題は誰も解けないぜ」というクソ生意気な自信が、より良い結果を生むのです(笑)。
下位にいた時は「これ難しいけど、上位の人には楽勝な問題かもしれない」という疑問が生まれ、問題の取捨選択に戸惑ってばかりでした。
一旦簿記論の攻略法を身に着けると後はその状態をキープするだけです。4月途中から本試験直前まで、ほぼ常に上位10%にいました。
6月の全国模試でも最高ランクのS判定だったので、「簿記論は合格間違いない!」と確固たる自信を持って本試験に臨むことができました。
財務諸表論
簿記論と同じく3月中旬から覚醒
もう一つの財務諸表論も繁忙期明けの3月中旬から飛躍的に成績がアップしました。
もともと財務諸表論の計算は簿記論より簡単なこともあり、簿記論で上位10%まで成長した当時の自分が財務諸表論の計算で苦労することはありませんでした。
理論を7月から始める
しかし、財務諸表論は全問計算で構成されている簿記論とは違い、半分が理論・半分が計算で構成されている為、理論もしっかり覚えないといけません。
法人税や相続税のような税法科目と違い、200ページ超の冊子を全て暗記する必要はないのですが、それでもある程度の会計論は暗記する必要があります。
ただし大多数の人がそうであるように、私も理論を暗記するという作業が大の苦手でした。文章を覚えるだけで数字も出てこないし電卓も使わないのでメチャクチャつまらないからです(笑)。
意思の弱かった当時の私は大好きな計算ばかり勉強してそれで満足していました。
ギターで例えると簡単なフレーズばかり弾いて気持ち良くなって、難しい速弾きから逃げているような感じです(笑)。そんな速弾きから逃げていた私は試験1ヶ月前まで理論をほぼスルーしていました。
計算でやることがなくなってからようやく重い腰を上げ、理論と向き合うようになりました。
しかし「財務諸表論の理論なんて1ヶ月あれば余裕で覚えられるぜ」とまたしても舐めプを発動してしまいます(笑)。
確かに法人税や相続税などの税法科目に比べて財務諸表論の理論は易しいのですが、理論しか勉強していないと肝心の計算の力が落ちます。
そのリスクは分かっていたのですが、この時点では計算に絶対の自信を持っていたので、7月からは理論9割・計算1割くらいの割合で勉強を進めました。
理論はこの1ヶ月でほぼ全て頭に入りましたが、その代償として計算が若干落ちた気がします。
本試験を振り返って
試験当日人生最悪の頭痛が襲ってきた
本試験会場は自宅から遠い東京外語大学だったので前泊することにしました。
当日は緊張もあり朝5時には目が覚めましたが、今まで経験したことがない頭痛が襲ってきて、しばらくベッドから起きることができませんでした。
私はもともと頭痛持ちなのですが、これほどの頭痛は後にも先にもこの時だけでした。1時間程ベッドでもがいて何とか起きてシャワーを浴びてスッキリしましたが、頭痛は一向に良くなりません。
それでも「本試験が始まればアドレナリンが出て、頭痛も消えるだろう」と信じて試験会場に向かいました。
途中のコンビニでレッドブルの大サイズを2本購入し、「ブルちゃん飲めば覚醒して頭痛も消えるはず」と信じ、試験会場の東京外語大学に向かいます。
簿記論
東京外語大学の試験会場の机はきちんとした長机で、日商簿記1級の最初の本試験で遭遇した「あのヤバイ机」でなく安心しました(笑)。
席に着いてブルちゃん1本目を投入すると少し頭痛が楽になりました。「これなら大丈夫」と落ち着き、いよいよ9時から簿記論の開始です。
前述のとおり簿記論には絶対の自信を持っていたので、どれだけコンディションが悪くても合格すると信じていました。
実際この年の問題は難しかったようで、合格率も簿記論にしては低い12.6%でしたが私には関係ありません。
第一問は商品有高帳の内容から「総記法」「3分法」「売上原価対立法」に基づいた仕訳を作る問題と「税効果」に関する仕訳を作る問題で、第二問は「リース取引」と「ソフトウェア」と「資産除去債務」に関する仕訳を書かせる問題でした。この年はやたらと仕訳を書かせる問題が多かったです(笑)。
第三問は非常に難易度の高い総合問題でしたが、「これはスルー」「これもスルー」「俺が難しいと感じる問題は誰もできないから華麗にスルー」とルンルン気分で、簡単な問題だけを冷静に選び解答しました。
ペース配分もうまく行き、第一問と第二問はほぼ完答、第三問も難題以外は完答でき試験終了時に「これで落ちたらもう受かる術がない!」というほど完璧な手応えでした。
休憩時間
2時間の簿記論が終わり、次の財務諸表論まで1時間ほどの休憩が入ります。
簿記論が終わると同時に頭痛が復活し、眩暈も出てきました。
「これはヤバい、休憩時間で何とか回復させなきゃ」と焦り、休憩時間は財務諸表論の復習はせず、冷房の効いた教室で回復することに専念しようとしました。
ところが「次の試験の準備があるので、退出してください」という悪魔のアナウンス。
「次の財務諸表論も同じ教室なので、ここで休んじゃダメですか?」と聞くと、
「次の科目の受験番号をそれぞれの席に貼る作業をするので退出してください」という返答。
「マジすか…」
仕方なく外に出ますが、出遅れた為、日陰の良い場所は既に埋まっています。ギリギリ日が当たらない場所を見つけそこで休むことにします。
食欲もなく、コンビニで買ったおにぎりも食べられず、1時間ひたすら座って回復を待っていました。
しかし頭痛と眩暈は良くなるどころか更に悪化しました。この日は猛暑日でしたので、日陰とはいえ暑さで余計に体調が悪くなりました。
試験開始20分前に教室に入ることができますが、教室に入って座っても頭痛と眩暈は無くなりません。
結局、回復もせず、財務諸表論の復習もできず、最悪な休憩時間でした…。
「もうブルちゃんに頼るしかない」と切り札のレッドブル(2本目)を投入しました。人生初のレッドブル大サイズ2本投入でしたが、これに懸けるしかない状況でした。
財務諸表論
残念ながら2本目のブルちゃんは全く効かず、頭痛と眩暈でクラクラしながら本試験がスタートしました。
計算問題から取り掛かりましたが、思うように問題を解けません。問題自体は簡単でしたが、頭痛と疲労でいつものようにスラスラ解けません。
本試験の連戦でかなり消耗しており、問題は解けているものの手応えのないフワフワした状態が続いていました。
何とか計算問題を解き終わり、残りの理論問題にいきます。
第二問にはまさかの「外貨建取引」が出てきましたが、「これは誰も解けんだろ」と開き直り捨てました(笑)。これは実際捨て問だったらしく、この判断は正解でした。
その他の理論は最後の1ヶ月で覚えた知識をフル活用して何とか解答欄を埋めることができました。
試験終了の合図が鳴り「筆記用具を置きなさい」のアナウンスがあった後で計算問題の転記ミスを発見します。
「マジか、普段はこんなこと絶対しないのに」
「この転記ミスで落ちたら一生後悔する」
「怒られるの覚悟で書き直すか?」
「バレなきゃ大丈夫だろ!」
「バレたら0点になるのか?」
「どうするどうする」
と悩みましたが、ビビりな私は書き直すことができませんでした(笑)。
試験終了後
簿記論は合格間違いなしと確信がありましたが、財務諸表論は得意の計算で手応えがなく、転記ミスも発見した為、合格しているかどうかは五分五分くらいかなという印象でした。
財務諸表論が終了してからも頭痛と眩暈は治まらず、どうやって家に帰ったのかも覚えていないぐらい疲弊していました。
試験後の達成感は全く無く、とにかく早く家に帰って休みたいという気持ちしかありませんでした。
頭痛は翌日起きると消えており「何でよりによって本試験の日だけ…」と何とも言えない怒りがふつふつと湧いてきました。
自己採点
TACの解答速報を見て、簿記論は合格のボーダーラインが約50点でしたが、私はどんなに低く見積もっても8割は取れていたので、簿記論の合格はこの時点で確定しました。
財務諸表論はやはり計算でのやらかしが多く7割程度しか取れていませんでした。理論も他と差をつけるほどの出来ではありませんでした。
財務諸表論はボーダーラインは上回っていましたが、合格確実ラインには遠く及ばない点数で、合格率が高く救済してくれることを願う他ありませんでした。
今回の本試験で得た教訓
当日の体調
人生最大の頭痛を本試験当日に連れてくる時点で私は持っていない人間でしたが、逆にこれを初年度に経験できて良かったと思います。
頭痛と眩暈でフラフラの最悪な状態で受験した財務諸表論でさえボーダーライン以上の点数は取れていたので、「本試験当日に普通のコンディションで挑むことさえできれば大丈夫」と変な自信をつけることができました。
同日に2科目受験の疲労感
私は試験時間3時間の日商簿記1級を経験していたので、1科目2時間の税理士試験の試験時間で苦労することは無いと思っていました。
実際、6月の全国模試で簿記論と財務諸表論を2科目連続で受験した時も疲れを感じることはありませんでした。
しかし、本試験での疲労感は模試の比ではありませんでした。
特に2科目目の財務諸表論は体調が悪かったとは言え、疲労で全く集中できず、常に上の空状態でした。
試験当日は猛暑日であることも多いため、休憩時間でいかに回復するかが重要だと身をもって痛感しました。これも初年度に経験できたので良かったと思います。
試験結果発表
12月下旬に結果発表がありました。
まず国税庁のホームページで科目別の合格率を確認します。
簿記論12.6%、財務諸表論15.3%という数字を見て、「簿記論低すぎだけど、絶対大丈夫」「財務諸表論そこそこ高い、受かっているかも」という期待を抱きました。
仕事の後家に帰ると茶封筒の試験結果通知書が届いていましたが、怖くてしばらく開けられませんでした(笑)。
覚悟を決めて開けると簿記論=合格28、財務諸表論=Aという記載。
つまり簿記論は合格、財務諸表論はA判定で不合格。
予想通りの結果でした…。
これを受けて翌年は「財務諸表論」と「消費税」を受験することにしました。
「法人税」は試験範囲が広すぎて財務諸表論と同時受験は難しいと感じていたので、試験範囲が狭い消費税を選びました。
試験範囲が狭いとは言え、今回の簿記論や財務諸表論とは比べ物にならない難易度の消費税です。
私の税理士試験戦歴の中で一番苦労した科目でもあります。
つづく