税理士試験挑戦5年目の2020年を振り返ります。
この年は官報合格最後の壁である相続税法を受験しました。
相続税法について
相続税法は私のように4科目合格した人が最後に挑戦する科目なので、ライバルはほぼ全員4科目合格者と言われています。
この中から上位10%に入らないと合格できない為、合格するのが非常に難しい科目です。
科目の純粋な難易度というよりも周りのレベルが非常に高いので、4科目までは順調に行っても、最後の相続税法が何年も受からないという話も良く聞きます。
本試験までの道のり
いつも通りスロースターター
前回の法人税と同じくオンラインで講義を受けましたが、講師の説明が非常に分かりやすく、今回も楽しく効率的に学習を進めることができました。
それでも何の知識も持たない相続税初学者の私は授業についていくのがやっとで、年内はいつも通りスローペースで学習を進めていました。
今までの経験から「繁忙期明けまでは焦らなくて大丈夫!」と余裕でした。しかし…。
コロナ襲来
年が明け2020年になると世界中で流行したコロナウィルスが日本にも上陸しました。
これにより私の勉強スタイルは一変しました。
大切な勉強場所である近場のカフェが時短営業になり、仕事後に勉強することが厳しくなりました。
それでも「今は繁忙期だから元々勉強できないし、少しすればコロナなんて落ち着くだろう」と、この時はまだ余裕がありました。
しかしコロナは落ち着く気配を全く見せず、その影響は数年に渡ることになり、コロナ初年度のこの年は特に影響が大きかったです。
緊急事態宣言で勉強場所が休業
繁忙期明けの3月中旬から追い上げるのがいつものパターンですが、4月の緊急事態宣言で私の大切な勉強場所である近場のカフェもついに休業してしまいました。
これは非常に痛かったです。
私は家では全く勉強できない人間で、勉強場所が休業=勉強できないを意味します。
途方に暮れるなか、自宅と職場の途中駅にあるカフェが営業を続けてくれたので、しばらくは帰宅途中にそのカフェがある駅で降りて、何とか勉強を続けることができました。
それでも近場のカフェに比べて「机が狭い」「照明が何か違う」「コーヒーの味も何か違う」のトリプルパンチでテンションも上がらず、思うように勉強を進めることができませんでした。
全国模試は受験すらしない
このような状況だったので、6月になっても理論はもちろんのこと計算も問題外なレベルでした。
「これで全国模試を受けても時間の無駄でしかない」と割り切り、税理士試験挑戦5年目にして初めて全国模試をスルーしました。
3年目の消費税までは「全国模試でS判定を取らないと本試験合格できない」ジンクスにハマっていましたが、前年の法人税でその呪縛から解き放たれ(D判定でも合格した)、今回の相続税に至っては受験すらしないという暴挙。
この頃から固定概念に捕らわれず効率化できることは効率化するという今のスタンスの土台ができたのかもしれません(笑)。
6月までの勉強時間は288時間
繁忙期明けも例年のように勉強をすることができず、本試験2ヶ月前の6月までの合計の勉強時間はたったの288時間でした。
相続税初学者でこれは圧倒的に勉強時間が足りません。
正直この時点で合格は絶望的だと悟っていたので、今回の本試験は辞退しようかと真剣に悩みました。
コロナ禍で思うように勉強できず、圧倒的に勉強時間が足りない状況に気持ちが切れかけましたが、これ以上税理士試験の勉強で家族に迷惑をかけたくないという想いもあり、何とか踏みとどまることができました。
ここで踏みとどまっていなかったら「5年で税理士試験5科目~」というこのブログのタイトルも使えなかったので、諦めなかった当時の自分を褒めながらこのシリーズを書いています(笑)。
7月から怒涛の追い上げ
何とか踏ん張り勉強を続ける自分に天も味方します。
7月になりようやく近場のカフェも定時の22時30分まで営業してくれるようになり、私の勉強場所が完全復活しました。
ここから怒涛の快進撃が始まります!
まずは6月まで全く手を付けていなかったTACの答練を第1回からひたすら解き続け、これを毎日繰り返すことで、7月末には計算が本試験レベルまで伸びました。
計算に関しては完璧ではないものの、何とか本試験で勝負できる状態になりました。
理論は一切書かない
計算は何とか本試験レベルまで持っていくことができましたが、理論を仕上げる時間がありません。
相続税の理論は法人税ほどのボリュームではないと感じていましたが、理論マスターで約250ページあり、法人税の理論マスターとほとんど変わらないページ数です。
残り1ヶ月を切る中で、ほとんど手を付けていなかった理論をどうやって本試験レベルまで持っていくか?悩みに悩みました。
導き出した結論は「本試験まで一切書かない!」です。
前回までは覚えた理論を白紙に書くという税理士試験受験生なら誰でも行っているであろう行為をしていましたが、今回は時間がないので、「理論は見て覚えて、頭の中で反芻するだけ!」という究極の選択をしました。
TACの答練も計算だけ解いていたので、理論は一切書かず(というか一切触れず)にいました。
つまり、前回の法人税の本試験から丸一年、一切理論を書かずに今回の相続税の本試験を迎えることになります。
これが本試験で大きな影響を与え、私は地獄の苦しみを味わうことになります。
日程に救われる
この年は東京オリンピックが開催される予定でしたので、その影響もあって税理士試験の開催日が例年よりも10日程遅い8月19日からでした。
これが非常に助かりました。
初学者の私にとってこの10日はとても大きなもので、前回の法人税同様に、初学者特有の最後の追い込みをかけることができました。
この10日の恩恵もあり、理論に関しても何も書けないという状況は発生しないであろうレベルまで持っていくことができました。
6月までは288時間しか勉強できませんでしたが、怒涛の追い込みをかけた7月と8月はそれぞれ101時間と97時間勉強していました。
特に8月に97時間は過去最多の勉強時間です。
ラスト2ヶ月に約200時間の追い込みもあり、今回は本当にギリギリ最後に何とか間に合ったという感じでした。
本試験を振り返って
試験会場は幕張メッセ
試験会場はコロナの影響で千葉県の幕張メッセになりました。
相続税は12時00分開始だったので、朝はゆっくりでき、余裕を持って会場に向かいました。
コロナ対策として体温が37.5℃以上の人は受験すらできないとなっていましたので、会場入口の検温は本当にドキドキでした。
当日は真夏日で汗だくだったので、それで体温が上がって検温で引っ掛かったら洒落にならんと思い、当日は妻からハンディー冷風機を借り、フルパワーで顔に当て、頭部を中心に冷やしました。
心臓バクバクでしたが無事検温はパスして、自分の受験番号が書かれている机に向かいます。
当然長机を一人で使うものだと思っていたら、なんと長机に2人で座るようになっていました。
「ソーシャルディスタンスはどこですか?」というレベルで、隣の人との距離は全然感染症対策されていませんでした(笑)。
「これがこの会場での最大限の感染症対策なんだ」と割り切り、恒例のレッドブル大サイズを一本注入して試験開始を待ちます。
コロナ禍での開催だったので、「本試験に来る人は正真正銘のガチ勢だけであり、例年より空席が多いだろう」と言われていましたが、さすが相続税はガチ勢の集まり。
空席はほとんどありませんでした。
計算
開始の合図と共にいつも通り計算から取り掛かります。
毎回恒例の手の震えを乗り越えて、解いていきます。
計算問題で印象に残っているのは親族関係図は右側のページ、それら親族の詳細(生年月日等)はめくった次のページという非常に嫌らしい配置です。
親族関係図に情報を記入するのにいちいちページをめくる必要があり、これのせいもあってとにかく解き辛かったです。
初めて見る問題もあり、四苦八苦しますが、計算で大きなアドバンテージを取らないと合格できないので、「とにかく計算は限りなく満点!」「凡ミス一つで全てが終わる!」という極限のテンションを維持したまま解き続けました。
最終的にはかなりの精度の解答を作り上げることができました。
開始30分で周囲の雰囲気が一変する
ほとんどの受験生は理論を先に解きますので、最初の数十分は多くの受験生が文字を書くペンの音が教室を支配しています。
私のように最初から電卓を叩いている人は少ないので、ペンの音は非常に目立ちます。
しかし試験開始30分程するとそのペンの音がピタっと止まりました。
そして何とも言えない嫌な雰囲気がプンプン漂っていました。
「理論でとんでもなくヤバイ問題が出ている」
これしかありません。
計算に全集中している自分が察することができるぐらい異様な雰囲気でした。
しかし元々私の弱点は理論なので、あまり気にせず計算を進めました。
理論がヤバイのは察したので、「計算で限りなく満点を取るしかない!」と覚悟を決め、自分に課している計算のリミット70分をオーバーしても解き続けました。
計算を解ききった時は75分経過していました。
税法科目で計算にこれだけ時間を費やすのは初めての経験でしたが、計算命の自分の選択は正しいと信じて理論に向かいます。
理論(地獄のラスト10分)
理論は問1も問2も両方事例問題でした。
問1は聞かれている内容も理解でき、覚えている理論だったので、急いで書きます。
そして多くの受験生の心をへし折ったと言われる理論の問2。
問題文を見た瞬間に頭が真っ白になりました。
「ヤバイ、全然分からん…。」
「何を書いたらいいか全然浮かんでこない。」
「これは白紙か…、ここで終わりか…。」
一瞬諦めかけましたが、ここで心折れずに踏ん張ります。
もう一年試験勉強続けるか?
嫌だ!
今諦めたら、
「5年で5科目」
「35歳で5科目」
「2020年に5科目」
全て達成できなくなるぞ?
嫌だ!
また来年も試験勉強の日々か?
妻と子どもが悲しむぞ?
嫌だ!
絶対今年で合格する!
何とか絞り出す!
折れかけた心を奮い立たせ、問題文を何回も読み、自分の覚えている理論に引っ掛かる部分が無いか頭をフル回転させました。
そしてついに閃きます!
「低額譲受と債務免除等!」
「これしかない!時間がない、急げ!」
残り時間は約10分!
聞かれた内容の答えになるように低額譲受と債務免除等の理論を簡潔にアレンジして書きます。
しかしこの一年間全く理論を書いていなかったツケがここで出ます。
計算と理論の問1で指のスタミナを使い切っており、字を書こうとすると指に激痛が走り、手も震えてしまい、思うように字が書けません。
「指がメチャクチャ痛い、辛すぎる。」
「頭では文章が浮かんでいるのに指がついてこない。」
「せっかく閃いたのに、指が痛くて書ききれないとか嘘だろ…。」
「あと10分だけでいい!耐えてくれ!俺の指!」
もはや税理士試験というよりマラソンのラストスパートみたいな感じで、指の痛みに耐えながら気合と根性で駆け抜けた最後の10分は正に地獄でした(笑)。
走り書き+殴り書きの合わせ技で、何とかギリギリ2つの理論を書ききることができ、そこで試験終了の合図。
改めて自分の理論の解答を見ると書いた本人も「これは日本語か?」と引くほどの字の汚さ(笑)。
それでも、採点者に最初の文字を拾ってもらい、その流れで全て読んでもらうことを信じて、各段落の最初の5文字程は気持ち丁寧に書きました。
本試験終了後
計算は75分使っただけあって、完璧な手応えでした。
計算にこれだけ使った受験生はほぼいないと思うので大きなアドバンテージを得たと思います。
理論は極限状態で絞り出したものが合っているかどうか次第です。
それでも理論も45分しかない中で最後は指マラソンに耐えて良く頑張ったと思います。
「大きなやらかしもなく、できる限りのことはやった」という満足感がありました。
この年はコロナに感染しないように例年以上に体調に気を遣っていたので、本試験が終わった瞬間に気が抜けて、どっと疲れました。
帰りの電車(京葉線)では放心状態でディズニーランドを眺め、東京駅からはご褒美のグリーン車に乗って、気が付いたら自宅の最寄り駅についていました。
解答速報を見て
計算は多くの時間を割いたことが幸いし、今回もほぼ完璧な出来でした。
理論の問2は自分が書いた理論で内容は合っていたみたいですが、字が汚すぎてそもそも採点してもらえるかどうかが不安でした。
しかし、字の汚さを抜きにするとほぼ完璧な出来だったので、今回も本試験で最高のパフォーマンスを出せたという達成感はありました。
さらにネット上では「今回はコロナ禍での開催だったから例年より合格率が高くなる(通称コロナボーナスがある)だろう」と言われており、私も当然それを期待しました。
「マジのガチ勢しか受験していないだろうから、例年より合格率が高くなるのは当然でしょ!」と大きな期待を抱き、「相続税でも合格率15%は行くんじゃないか、それなら合格間違いなしだ!」と何故か超ポジティブシンキングで結果発表を待ちました。
試験結果発表
低すぎる合格率
そんな淡い期待は、合格発表当日の合格率を見た瞬間に吹き飛びました。
「相続税法 10.6%」
「!?」
「えっと…、前回(11.7%)より低いんですけど?」
「コ、コロナボーナスは?」
今見てもコロナ初年度で頑張った受験生に対してこの合格率は酷すぎますね(笑)。
この年の全体の合格率は17.3%と非常に高いので、ボーナス的なものは確かに存在していました。
特に簿記論22.6%、財務諸表論19.0%、法人税16.1%、住民税18.1%とボーナス炸裂でした。
しかし相続税はまさかの10.6%…。
「はぁ?コロナ?相続税には関係ねーよ(笑)」
「そんな簡単に官報合格させねーよ(笑)」
と言わんばかりのグロすぎる合格率。
この合格率を見て、「もう一年か…」と天を仰ぎました。
まさかの官報合格
絶望の合格率を見てテンションだだ下がりの状態で出勤しました。
この時点で周りの人は「あ、落ちたんだ」と思ったでしょう(笑)。
午前中は何とか仕事を頑張り、昼休みに事務所の近くの公園に行き、ネットの官報合格者のページに自分の受験番号が載っているか確認しました。
不合格を覚悟していたので、「一応見とくか」的なノリでした。
試験会場の千葉県のページに自分の番号があるか見ます。
この年の官報合格者は648人で、その内、千葉県は235人でした。
自分の受験番号は「15○○○」だったのですが、「15」で始まる人は20人ほどしか載っていませんでした。
その少ない番号に自分がいるかどうか探すと…、ありました(笑)。
「え?え?え?」
「マジで!?」
「受かってる!」
この時の驚きは言葉で表現できません。
「ほぼ確実に不合格」と思っていたので、自分の番号があることに理解が追い付きませんでした。
とりあえず最初にしたことは、自分の番号が載っているそのページをスクショして証拠として残したことです(笑)。
まだ自分が合格したことが信じられなかったので、この画面を消してもう一回開いたら自分の番号が消えているんじゃないかとビビッて、証拠保存をしました。
無事証拠保存を終えてから、公園で泣きました(笑)。
「嬉しい」というより「やっと終わった…」でした。
フルタイムで働きながら5年で5科目合格なので、とても順調だったと思いますが、それでも色んなものを我慢して、家族にもたくさん我慢させて、税理士試験に人生を懸けたこの5年はストレスフルなものでした。
そんな状況下で、人生を懸けた大目標である「税理士試験5科目に合格する!」を達成できたことに安堵し、「ようやくこの生活が終わる」と力が抜けたのだと思います。
何かをやり遂げて泣くという経験が初めてでしたが、多分二度とないでしょう。
というか、35歳のおっさんが一人で冬の公園で泣いているとか、恐ろしい絵面ですね(笑)。
この時公園で遊びたかった子どももいたと思いますが、こんな奴がいたら絶対に遊べないです。
自分だったら「ヤベー奴がいるから他の所に行こう」となります(笑)。
2019年9月~2020年8月の勉強時間
この期間の相続税の勉強時間は合計486時間でした。
最後の科目でとんでもない奇跡を起こしました。
この勉強時間で相続税一発合格は、今でも信じられないです。
前回の法人税のような初学者に優しい仏の回に当たったわけでもないので、本当に奇跡です。
コロナ禍でも心折れずに最後まで諦めずに頑張った自分への最高のご褒美だと思います。
税理士登録
官報合格を果たした時点では独立する気は全く無かったので、これからは勤務税理士として生きていくつもりでした。
12月の合格発表後も税理士試験の勉強をしなくて良い日常が訪れ、試験勉強に費やした時間を家族や自分のプライベートの為に使うことができました。
「仕事の後は家に帰って家族と過ごす」
「休日は勉強時間を気にせず好きなことができる」
日商簿記1級や税理士試験に縛られていた時からは想像できないほど穏やかに時は流れていました(笑)。
上述の通り、当時は独立する気も全く無かったので、税理士登録も繁忙期明けからゆっくり行った結果、官報合格の翌年6月に税理士登録が完了し、税理士になることができました。
これが私の税理士試験に挑み続けた5年間です。
改めて…、税法科目に合格した最後の3年は特に本番に強かったなと思います。
合格した科目は全て「完璧な手応え、これで落ちたらどうしたらいいんですか?」という会心の出来だったので、これを本番で出せたことが大きな勝因だったと思います。
最初の2年で落ちた科目は「それなりに出来た、合格しているかもしれない」という手応えでしたが、この達成度では合格させてくれません。
ちなみに、相続税の本試験の最後の10分は今思い出しても吐きそうです(笑)。
最後に一言。
「税理士試験において指のスタミナは重要である」
おわり